浅海・内湾・沖合領域

調査目的

沿岸海域の主に水深20m以深の浅海・内湾・沖合では、生物生産が豊かです。そこでは、漁業や陸上での人間の開発行為等の影響を敏感に受けやすい領域でもあり、近年の漁業生産は頭打ちとなっています。

私たちは、これらの領域についても、生態系・生物多様性をはかり、保全して、海洋生物資源を安定供給する技術の開発に資する調査を行っています。

調査項目

人工魚礁漁場の
リノベーション技術

1.ナローマルチビーム測深システム
による海底地形・人工魚礁の
設置状況の把握

状況の確認

 従来、魚礁の設置状況を把握するためにはシングルビーム測深機とサイドスキャンソナーを併用する調査が行われてきました。シングルビーム測深機は送受波器直下の水深を取得し、サイドスキャンソナーは測線間の海底地形を補間することや魚礁の2次元的な配置状況(平面写真)を把握することができました。
 近年、詳細な海底地形や水中構造物の設置状況の把握、施工管理などにナローマルチビーム測深システム(以下、NMBとする)が常用されるようになり、魚礁の設置状況の把握に応用が可能となっています。
 NMBは、従来法で得られなかった3次元的なデータ(3次元点群データ)を取得ができることから平面図はもとより、任意の断面図の作成、鯨瞰図(3D図)が作成できます。
 また、3D処理ソフトにより、任意の方向から魚礁の設置状況や、変状(埋没・洗堀・破損・転倒等)を確認することが可能で、魚礁漁場のリノベーション計画をたてるのに最適です。

  • サイドスキャンソナー
  • NMB
    360°左右・上下への回転が可能

2.ナローマルチビーム音響測深機
とはどのような機器?

  • ナローマルチビーム音響測深機は測量船の左右方向に指向性の鋭い音響ビームを海底に照射し、船の進行とともに水深値を面的に連続して計測できます。
  • 測量船には位置、方向、動揺、水中音速度を計測するセンサーおよびこれらを制御するPCが搭載され、全体をナローマルチビーム測深システムと呼びます。
  • 弊社の測深機はTELEDYNE RESON社製SeaBatT50-PやR2Sonic, LLC社製 Sonic2024を使用します。
  • 測量の実施にあたっては、海上保安庁 水路測量業務準則及び同施行細則、「マルチビームを用いた深浅測量マニュアル(浚渫工編)」(国土交通省港湾局)を準用します。
  • 送受波器と吃水の確認はバーチェック法により行います。
  • 送受波器の取り付け角度の補正はパッチテストにより行います。
  • 潮位観測データの取得、海面から海底面上までの水中音速度は測深日毎に計測します。
  • 測量船の誘導及び海上測位については、GNSSを使用します。GNSSの使用には指示基準点において精度の確認を行います。
  • 測線間隔は、現地の水深を基準に1m程度の魚礁が判別出来るように設定します。

3.その他人工魚礁漁場
リノベーションへの活用技術

バイオロギング
(岩礁性魚類の行動追跡)

岩礁性魚類の3次元行動について、魚体に発信機を取り付け、多数の受信機を用いて、追跡し、統合的に解析します。

  • 魚体(腹腔内)に発信器を装着
  • 魚類の遊泳状況の3次元追跡

バイオロギング
(浮魚類・マアジ)

魚体に発信機を取り付け、放流した人工魚礁を含む行動範囲を追跡することにより、遊泳水深や遊泳位置などを解明します。

  • マアジと発信機(ピンガーの外部装着)
  • 遊泳位置解析

計量魚探による浮魚などの
現存量推定

曳航体から超音波を発受信し、計量魚探の記録から、浮魚などの魚群の蝟集状況を把握し、現存量を推定します。

計量魚群探知機(SIMRAD社製 EK-60)

定点設置型計量魚探の導入

定点設置型計量魚探の導入により、物理(流れ、水温、塩分等)と化学(溶存酸素、クロロフィル等)と合わせた
魚群(個体)の連続観測が可能になりました。

                 

定点設置型計量魚探とは?

 従来の計量魚探では1回の超音波を送信後、反射波を受信するまで、次の超音波を送信できなかったものが、本計量魚探ではFast Interval Echosounding Technology(FINE Tech.)により超音波をコード化して、一つ一つの超音波を識別することにより、1秒間に40回以上の超音波の送信ができ、ほぼ途切れることなく連続に、精密に計測できるようになりました。解像度は1cm程度、周波数は240kHzです。
 また、従来の魚探はSV/TSから魚群密度を推定していましたが、本計量魚探はFINE Tech.の導入により、直接的に個体数を計量可能であり、個々の魚のTSに基づいて魚体長が解析可能となります。
 本体は幅23cm×奥行15cm×高さ5.5cmとコンパクトであり、本体とバッテリーが入る防水ハウジングが開発され、定点で海面、海中に浮かせたり、海底に直接設置することが可能であり、低消費(間欠動作)技術と大容量電池を組み合わせると、1ヶ月程度の連続観測が可能となります。

炭素窒素安定同位体比(C-Nマップ)
を用いた食物連鎖解析
および生態系構造の解析

炭素安定同位体比の特徴は植物プランクトンや海藻、陸上植物など基礎生産者で値が異なること、
また、窒素安定同位体比の特徴は食う-食われる間で約3%濃縮されることを活用して、食物連鎖や生態系構造を解析します。

図

漁場の動態と流れや
水塊・餌との関連

湾・灘スケールにおいて、例えばイカナゴを漁獲する漁船の位置を抽出し、流れと漁場の重ね合わせ、
また、クロロフィルと漁場の重ね合わせなどより、相互関係を解析します。

浮泥が多い内湾域での底質調査

エクマン採泥器内設置型のコアサンプラーを取付けることにより、浮泥が多い内湾域での正確な底質調査を実現します。

  • 浮泥
  • エクマン採泥器内設置型コアサンプラー

カイトネットによる
幼稚魚の採取

カイトネットは、船びき網漁業の操業用漁網のもじ網(目合240径)を身網として、網口胴周を10 m、袋網の目合を351μmとし、網口開口装置に軽微な装備で開口可能となるキャンバス生地のカイトを用いて作成しています。採取される魚の体長は4 mmから入網し、漁獲対象サイズの30 mmの採取が可能です。

  • カイトネット
  • 調査の様子

環境DNAによる網羅的解析と
種特異的解析

環境中のDNAを解析することで、さまざまな生物に由来するDNAの配列を同時に取得して、得られたDNA配列とデータベースの配列を比較し、相同性の高い生物候補をリストアップし、生息する生物群を推定します。さらに、種特異的なプライマーを使用して、特定の生物の在・不在を解析します。対象とする生物によってはプライマーの設計・合成が必要となります。